1964年5月に上映された東宝ミュージカル映画「君も出世ができる」に先んじて4月に上映された大映のミュージカル映画。たとえば「狸御殿」シリーズなら大映京都時代劇の十八番だが、現代劇でしかも「ティファニーで朝食を」と「ウェストサイド物語」を足して2で割った企画とは、何とも天晴れである。
もう一つ笑えることがある。この映画の予告編には当時の大映永田雅一社長が自ら登場して映画紹介している。ところが上映当時、出演者を見ても中田康子だけは主役級だからわかるが、それ以外は誰?という新鮮なメンバーばかりだった。(尾藤イサオは「匕首マッキー」で歌手デビューしていたが演技はまだ不慣れだった)
東宝は宝塚歌劇や日劇、松竹は松竹歌劇団(SKD)を擁しているが、大映はダンスとは無縁でどちらかと言うと京都時代劇の会社である。外部の人間を登用してまで、どうしてこういう企画を立てたのか?何とも奇々怪々なミュージカルである。

 

あらすじ
今は普通に使っている言葉だが、当時は観光ガイドが娼婦の意味だったのか?
エミ子はその観光ガイド嬢である。ボスの囲い者だがいつも仕事にやる気を見せないので、仲間内で浮いている。

その日も一人だけ仕事にあぶれていると、ブラジルでコーヒーを栽培しているという星野がお客に付く。星野は一時帰郷しているのだが、あちらで妻を亡くした後やもめ暮らしを続けていた。しかし再婚せよとうるさい友人の手前、恋人がいると言ってしまい、証拠を見せろと言われて娼婦のエミ子に恋人の不利をさせたのだ。
ところがエミ子の飲みっぷりの良さを気に入り、次の日星野はエミ子に6000円の靴を買ってあげる。そこでもう一晩、エミ子は星野のホテルを訪ねるが、商売敵の娼婦たちにシマを荒らしたと刃物で襲われる。危機一髪のところを星野に救われて、エミ子の自宅に迎え入れる。そこへボスが来て他の客が付いたと言うが、星野は3倍の料金を払い、追い返す。
記憶喪失の振りをするほどエミ子は過去を詮索されるのを嫌っていたが、横浜へ行ってまで過去について調べてあげようとする星野に根負けして、靴磨きだったことを明かす。

ところが星野も嘘を吐いていたと告白する。コーヒー栽培で失敗していたのだ。だから裸一貫出直す前に、もしや最後になるかも知れぬから生まれ故郷の日本を一目見ておきたかった。エミ子は今夜発ブラジル行きの船に一緒に乗ることを約するが、ボスに気付かれ監禁されてしまう。

 

 

 

ミュージカルとしての弱点はヒットソングになるようなものがない。前田憲男平岡精二の曲は悪くないのだが歌詞にパンチがない。もしや平岡精二の詞かも知れない。平岡精二が作詞作曲してペギー葉山が歌った『爪」は大好きなのだが、決してミュージカル向きではなかった。
チンピラや女の子の群舞シーンは本場仕込みの振付(ロッド・アレキサンダー)が付いているので良いのだけれど、群舞に合わせる歌が面白くない。

 

 

歌唱では中田康子が随所で一人で気を吐く。とくに面白かったのは靴磨きに扮するシーンだ。
現役歌手なのに原田信夫の見せ場はこれと言ってないし、尾藤イサオも当時デビューしたばかりで自分の型のロカビリー調音楽しかこなせない。相手役の坂本博士は、オペラ歌手だからジャズっぽいリズミカルな曲が歌えない。
この映画は中田康子一人だけにフォーカスが当たっていて、まるで中田の引退披露公演に見える。
演奏では、たまたま来日していたらしいローランド・ハナ・カルテットが娼婦を買うバンドマンの役で出演しているw。メンバーにはサド・ジョーンズアルバート・ヒースがいるからジャズファン必見である。

 

監督 島耕二
製作 永田雅一
ミュージカルシーン監督 ロッド・アレキサンダー (ハリウッド映画「回転木馬」の振付)
脚本 舟橋和郎
撮影 小原譲治
音楽 平岡精二 、 前田憲男

 

配役
エミ子 中田康子
星野  坂本博士
田辺 岩村信雄
譲治 原田信夫
イサオ 尾藤イサオ
渋谷 中条静夫
神田 村上不二夫
品川 夏木章
大久保 丸山修
ローランド・ハナ (p)
サド・ジョーンズ (tp)
アルバート・ヒース (ds)
エルニ・ファロー (b)

 

この映画の主人公たちのその後だが、宝塚歌劇団→日劇ダンシング・チーム→NHK→東宝→大映と渡り歩いた中田康子はこの後すぐ引退し、永田雅一社長との関係を引きずるが大映が倒産する頃、ついに関係を清算し病院に就職した。そこで医師と結婚したが、息子を産んで離婚。ジャズダンス・スタジオを開き、子供を女手一つで育て上げる。たまに女優時代のインタビューに答えていたが、もう84歳になり音沙汰はない。

ボス役の岩村信雄はバレエを専門にしていて、日本で本格的ミュージカルを演じたいと思っていた。読売ランドに正力松太郎に鶴の一声で水中劇場が出来たとき、水中バレエの総監督をしている。奥さんと離婚した後の岩村氏はダンススタジオで指導者として活躍していたが、数年前に亡くなられたそうだ。そのときの奥さんが近藤玲子で離婚後は近藤玲子水中バレエ団として活躍していたが、よみうりランド水中劇場は阪神大震災後に設備の老朽化を理由として閉館された。

チンピラ役で一番目立っていたのが原田信夫。「コメプリマ」「港町シャンソン」などがソロ時代のヒット曲。ザ・キャラクターズを率いて音楽グループとして活躍もしていた。ところがフランスで逮捕されて5年も刑務所暮らし。出所してからも歌手活動を続けているが、最近は噂を聞かなくなりました。

相手役の坂本博士はオペラ歌手として有名だから知っているだろうが、東京芸大卒で元々藤原義江門下のバリトン歌手。68年ごろから音楽学校を経営して成功を収めている。

アスファルト・ガール 1964 大映東京

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